障害福祉DX事例6選!進め方と注意点も解説

「人手が足りないのに、記録や書類の作業に追われて残業が減らない」。障害福祉の現場で働く方なら、一度はこうした悩みを抱えたことがあるのではないでしょうか。限られた人数で利用者への支援と事務作業の両方をこなす毎日は、心身ともに負担の大きいものです。

その解決策として近年注目されているのが、DX(デジタル・トランスフォーメーション。デジタル技術を使って仕事のやり方そのものを見直す取り組み)です。とはいえ「言葉は聞くけれど、実際にどんな効果があるのか想像しづらい」という声も少なくありません。

そこでこの記事では、実際に障害福祉の事業所がデジタル化に取り組んだ事例を、業務の種類ごとに6つご紹介します。あわせて、失敗しないための進め方や、導入前に知っておきたい注意点もわかりやすく解説。自分の事業所ではどこから手をつければよいか、具体的なイメージを持ち帰っていただける内容を目指します。

この記事で分かること

Q1. 障害福祉のDXで、実際にどんな効果が出ているの?
A.記録と請求の一本化で請求業務が3名→2名分に、電子サイン導入で20名分の記録を5名が午前午後30分ずつで完了など、現場の負担軽減や情報共有の円滑化に効果が出ています。

Q2. DXはどう進めればいい?
A.まず最も負担の大きい課題を1つに絞り、使える補助金を確認したうえで、少数の機器から小さく始めます。効果を数字で振り返り、うまくいったら対象業務を段階的に広げるのが成功の型です。

Q3. DXで気をつけることは?
A.職員のITスキル差はすぐには埋まらず、使いこなすにも時間がかかります。固定費もかかるため一気に全部は非現実的。利用者への支援そのものは、これからも人が担う部分だと理解しておくことが大切です。

目次

【業務別】障害福祉施設のDX事例

「DXといっても、うちの事業所に本当に効果があるのだろうか」。そう感じる方に、まず知っておいていただきたいデータがあります。

杉並区が公表した「令和8年度障害福祉サービス事業所等におけるICT化(デジタル)等に関する調査報告書」によると、請求業務のシステムを導入している事業所は70.5%にのぼりました。そしてICT(情報通信技術)を取り入れた効果を実感している事業所は、「大いに感じる」40.9%と「やや感じる」48.9%を合わせて、およそ9割に達しています。

さらに、どんな効果を感じているかをたずねた結果では、「職員の負担軽減」が70.5%、「情報共有の円滑化」が69.3%と上位を占めました。つまり多くの事業所が、デジタル化によって現場の負担が軽くなり、職員どうしの連携がスムーズになったと答えているわけです。

出典:https://www.city.suginami.tokyo.jp/documents/24162/ictsurveyreport.pdf

こうした効果が、具体的にどんな取り組みから生まれているのか。これからご紹介する6つの事例を、まずは一覧でまとめました。

業務プロセス事例(法人名)取り組んだ内容得られた効果
記録・書類手続き大三島育徳会記録と請求のシステムを一本化保険請求業務が3名→2名ぶんの作業量に削減
記録・書類手続きTech.neo(株式会社Create)電子サインでタブレット署名に切り替え20名分の記録を支援員5名が午前・午後30分ずつで完了。経費も削減
会議・情報共有滝乃川学園Wi-Fi整備とタブレット・グループウェア導入議事録や告知を全職員へ迅速に共有。書類提出のための移動が不要に
シフト・勤怠管理豊寿会AIによるシフト作成ソフトと勤怠管理の連動シフト作成の属人化を解消。集計の手作業から解放
現場ICT機器ALSIA富山ノートPC・タブレットを導入撮影時間10分→5分、再撮影率25%→7%、ネット通販の出品数が月50点→80点
現場ICT機器希望のきずなiPadとWi-Fiアクセスポイントを設置現場で記録入力が可能になり残業を削減。リアルタイムの情報共有も実現

それでは、業務の種類ごとに詳しく見ていきましょう。この記事で取り上げるのは、次の4つの切り口です。

  • 記録・書類手続きのDX化事例
  • 会議・情報共有のDX化事例
  • シフト・勤怠管理のDX化事例
  • 現場ICT機器のDX化事例

記録・書類手続きのDX化事例

障害福祉の現場でもっとも負担が大きいと言われるのが、日々の記録づくりと各種書類の手続きです。ここでは、その手間を大きく減らした2つの事例を紹介します。

  • 大三島育徳会
  • Tech.neo(株式会社Create)

大三島育徳会

大三島育徳会

東京都世田谷区の社会福祉法人 大三島育徳会は、高齢者福祉と障がい福祉サービスの両方を手がける、地域でも数少ない法人です。

同法人がかつて抱えていた最大の課題は、記録と請求の「二度手間」でした。介護の記録をつけるシステムと、介護保険の請求をおこなうシステムが別々だったため、同じ情報を二回入力しなければならず、そのぶん時間も手間もかかっていたのです。

そこで、記録と請求をひとつにまとめられるシステムへ切り替えました。すると、二重入力そのものがなくなり、これまで3名で担当していた保険請求業務が、2名で対応できる作業量にまで減っています。空いた人手や時間を、利用者と直接向き合う支援に回せるようになったことも大きな成果と言えるでしょう。

出典:https://www.otsuka-shokai.co.jp/products/multiple-locations/case/case03.html

Tech.neo

Tech.neo

福岡県で就労継続支援A型や就労移行支援などを運営する株式会社Createの「Tech.neo」では、実績記録の取り方に悩みを抱えていました。記録が紙による運用だったため、利用者からサインをもらい忘れてしまうことが起きやすかったのです。

この課題に対して同事業所が取り入れたのが、電子サインの仕組みです。毎日の実績にかかわる署名を、紙ではなくタブレット上で受け取る運用へと変えました。

その結果、20名分の支援記録の作成を、5名の支援員が午前と午後にそれぞれ30分ずつ取り組むだけで終えられるようになっています。紙をなくしたことで印刷などにかかる経費も抑えられ、記録作業の効率と費用の両面で効果が表れました。

出典:https://kabe-nashi.jp/voc/work-tech.html

会議・情報共有のDX化事例

複数の拠点を持つ事業所ほど、職員どうしの連絡や引き継ぎに時間を取られがちです。ここでは、情報共有のあり方を大きく変えた事例を紹介します。

東京都国立市の社会福祉法人 滝乃川学園は、障害児入所支援や生活介護、放課後等デイサービスなどを手がけ、職員は275名にのぼります。

同学園では、記録や情報共有がパソコンの設置場所に縛られていたことが課題でした。部署どうしの連絡や引き継ぎのたびに職員が移動しなければならず、離れた場所にある10か所のグループホームの職員にいたっては、書類を提出するためだけに本部へ足を運ぶ必要があったのです。

そこで、まず施設全体にWi-Fiの環境を整え、職員にタブレットやスマートフォンを配布しました。あわせて、新しい記録ソフトや、職員どうしが情報をやり取りするためのグループウェア、申請の流れを電子化するワークフローシステムも導入しています。

この取り組みによって、会議の議事録やお知らせを全職員へすばやく届けられるようになりました。さらに、グループホームの職員が書類提出のためだけに事務所へ出向く必要がなくなり、稟議(社内での承認手続き)や各種申請のスピードも上がっています。

出典:https://www.mhlw.go.jp/shogaifukushi/case/05/

シフト・勤怠管理のDX化事例

多くの事業所を運営するほど、シフト作成と勤怠の集計は骨の折れる作業になります。次に紹介するのは、その負担を仕組みで解決した事例です。

青森県八戸市の社会福祉法人 豊寿会は、知的障害のある方を中心とした障害者支援事業を、9つの事業所で展開しています。

同法人が「もっとも手間のかかる業務」と位置づけていたのが、シフト表の作成でした。新人とベテランをどう組み合わせるかなど、考えるべき条件が複雑で、担当者の経験や勘に頼る属人化(特定の人にしかできない状態)が進んでいたのです。

そこで2021年、AIがシフトを組み立てるソフトを導入しました。加えて、2019年からは勤怠管理もシフト表と連動させ、専用のIDカードとクラウド上での集計へと切り替えています。

その結果、これまで特定の担当者に頼りきりだったシフト作成の属人化は解消。タイムカードを一枚ずつ手で集計する作業からも解放され、労務を担当する職員の負担も軽くなりました。

出典:https://www.ricoh.co.jp/magazines/smb/casestudy/000952/

現場ICT機器のDX化事例

パソコンやタブレットといった機器そのものを現場に取り入れることで、日々の作業が変わることもあります。ここでは、機器の導入で成果を上げた2つの事例を紹介します。

  • ALSIA富山
  • 多機能型事業所 希望のきずな

ALSIA富山

ALSIA富山

富山市の「令和6年度富山市就労系障害福祉サービスにおけるICT機器等導入支援事業」に採択された事例です。

この事業所では、就労訓練として商品の撮影に取り組んでいましたが、使えるのはスマートフォン1台のみでした。画面が小さいため構図の確認が難しく、撮り直しがたびたび発生し、1つの商品を撮るのに平均10分ほどかかっていたのです。画像の編集も指導員が担当しており、利用者が訓練できる範囲が限られていました。

そこで2025年の2月から3月にかけて、ノートパソコン3台と11インチのタブレット1台を導入しました。

すると、1つの商品あたりの撮影時間は10分から5分へと半分に短縮。撮り直しの割合も25%から7%まで下がりました。さらに、ネット通販への出品数は月50点から80点へと増え、訓練の成果が数字にもはっきりと表れています。

出典:https://www.city.toyama.lg.jp/health/shogaisha/1010519/1015189.html

多機能型事業所 希望のきずな

希望のきずな

同じく富山市の「障害福祉分野のICT導入モデル事業」に採択された、医療法人社団中山会の事例です。

こちらの事業所では、利用者が帰ったあとに支援記録を作成していたため、どうしても残業が発生していました。通信環境も安定せず、職員どうしで情報を共有することも簡単ではなかったのです。

この課題に対して、iPadを2台導入し、建物のなかの3か所にWi-Fiのアクセスポイント(電波の受発信を担う機器)を設置しました。

その結果、利用者を見守りながら、その場で記録を入力できるようになり、退勤後に残って記録をつける必要が減っています。共有アプリを通じて、必要な情報をその場ですぐに職員間で共有できるようになった点も、大きな変化と言えるでしょう。

出典:https://www.city.toyama.lg.jp/health/shogaisha/1010519/1015189.html

DX化に成功した施設に共通する3つのポイント

ここまで6つの事例を見てきましたが、うまくいった事業所には、実はいくつかの共通点があります。デジタル化を「なんとなく」で進めるのではなく、成果につなげるための共通した進め方があるのです。ここでは、その3つのポイントを整理して紹介します。

  • 課題を1つに絞ってから着手している
  • 補助金や既存の公的枠組みを組み合わせている
  • 導入効果を数字で振り返り次につなげている

課題を1つに絞ってから着手している

1つ目の共通点は、「まず何を解決したいのか」をはっきりさせてから動き出している点です。

たとえば大三島育徳会は、「残業ゼロ・骨折事故ゼロ・誤薬ゼロ」という3つの解決したい課題をあらかじめ明確に定めたうえで、それに合ったシステムを選んでいます。ALSIA富山が取り組んだのは、「ネット通販向けの商品撮影が非効率」という1点でした。この課題に絞ってタブレットを導入しています。希望のきずなも同様に、「退勤後の残業」という悩みに焦点を当て、iPadとWi-Fiの整備を進めました。

いずれの事業所にも共通するのは、「まずは全部をいっぺんに変えよう」とはしていないことです。最初の一手を絞り込み、そこから着実に取りかかっている。この順番こそが、デジタル化を成功に導く出発点と言えるでしょう。

出典:https://www.otsuka-shokai.co.jp/products/multiple-locations/case/case03.html

補助金や既存の公的枠組みを組み合わせている

2つ目の共通点は、自己資金だけに頼らず、公的な支援制度を上手に活用していることです。

大三島育徳会は、東京都の「介護保険施設等におけるICT活用促進事業」という補助金を使ってシステムを導入しました。ALSIA富山と希望のきずなも、それぞれ富山市の「ICT導入モデル事業」や「就労系ICT機器等導入支援事業」といった補助金を活用しています。

デジタル化には、機器やソフトの購入費用に加えて、研修や現場への定着にかかる費用も発生します。だからこそ、こうした公的な制度を組み合わせて、着手のハードルを下げることが大切です。使える制度を探して活用する姿勢が、最初の一歩を踏み出しやすくしてくれます。なお、障害福祉で使える補助金については、記事の後半であらためて詳しく解説します。

出典:https://www.otsuka-shokai.co.jp/products/multiple-locations/case/case03.html

導入効果を数字で振り返り次につなげている

3つ目の共通点は、導入して終わりにせず、効果を数字で振り返り、次の取り組みへつなげていることです。

ALSIA富山は、撮影時間や撮り直しの割合、出品数といった数字を継続して確認しながら、画像編集ツールを試しに入れてみるなど、さらなる改善へと反映させています。大三島育徳会も、保険請求業務が3名から2名ぶんへ減った効果を踏まえ、「今後は経理や労務といったバックオフィスの業務もデジタル化を加速させたい」という展望を示しました。豊寿会の場合は、会議をオンライン化したことで所要時間が30分から10分に短縮できた効果を出発点に、シフトや勤怠の管理へと取り組みの範囲を広げています。

3社に共通するのは、「効果を測る」→「次の一手を打つ」というサイクルを回している点です。一度導入して満足するのではなく、成果を確かめながら少しずつ広げていく。「導入したものの、使いこなせずに終わってしまうのでは」という不安を持つ方こそ、この振り返りの習慣をぜひ参考にしてください。

出典:https://www.otsuka-shokai.co.jp/products/multiple-locations/case/case03.html

障害福祉におけるDXの進め方

「デジタル化に取り組みたいけれど、何から手をつければいいのかわからない」。そう感じる方も多いはずです。実は、うまくいった事業所の取り組みをたどると、共通した進め方の流れが見えてきます。ここでは、その流れを4つのステップに分けて紹介します。

  • 現場の課題を1つに絞り込む
  • 使える補助金・支援制度を確認する
  • 小さく始めて効果を数字で確認する
  • 効果を踏まえて対象業務を広げる

現場の課題を1つに絞り込む

最初のステップは、解決したい課題を1つに絞ることです。すべての業務を一度に変えようとすると、どこから手をつけるべきか迷ってしまい、かえって前に進めなくなります。まずは、もっとも負担の大きい業務を1つだけ選ぶところから始めましょう。

絞り込みには、大きく2つの考え方があります。1つは、大三島育徳会の「残業ゼロ・骨折事故ゼロ・誤薬ゼロ」のように、「どういう状態になりたいか」を先に言葉にする方法です。理想の姿から逆算することで、必要な手立てが見えてきます。もう1つは、ALSIA富山や希望のきずなのように、日々の作業のなかで「いちばん時間がかかっている作業」を洗い出す方法です。時間のかかる作業ほど、改善したときの効果も大きくなります。

自分の事業所ではどちらの視点がしっくりくるか、まずはそこを検討してみてください。

出典:https://www.otsuka-shokai.co.jp/products/multiple-locations/case/case03.html

使える補助金・支援制度を確認する

課題が定まったら、次に確認したいのが補助金や支援制度の有無です。デジタル化には機器やソフトの購入費用がかかるため、すべてを自己資金でまかなおうとすると、どうしても着手のハードルが高くなってしまいます。

まず問い合わせたいのが、都道府県や市区町村の障害福祉を担当する部署です。実際、大三島育徳会は東京都の制度を、ALSIA富山と希望のきずなは富山市の制度を活用しています。地域によって使える制度は異なるため、自分の事業所がある自治体にどんな支援があるかを確認するとよいでしょう。

ただし、補助金には申請できる時期や、対象となる経費が決められていることがほとんどです。「導入したあとから申請しよう」と考えていると、間に合わないこともあります。気になる制度があれば、早めに窓口へ問い合わせておくと安心です。具体的にどんな補助金があるのかは、記事の後半であらためて詳しく解説します。

小さく始めて効果を数字で確認する

補助金の見通しが立ったら、いよいよ実際の導入です。ここで大切なのは、はじめから大がかりな仕組みを目指さないこと。まずは少数の機器やソフトから試してみて、手ごたえを確かめる進め方がおすすめです。

このとき、効果を確認するための「ものさし」をあらかじめ決めておきましょう。たとえばALSIA富山は、「1つの商品あたりの撮影時間」「撮り直しの割合」「ネット通販への出品数」という3つの数字を、導入の前後で比べられるように設定していました。こうした具体的な数字があると、成果がひと目でわかります。

逆に、数字を決めずに始めてしまうと、「なんとなく楽になった気がする」で終わってしまいがちです。それでは次にどう広げればよいか判断しづらく、職員や法人の中で成果を説明するのも難しくなります。自分の事業所なら、どんな数字をものさしにできるか。導入の前にぜひ考えてみてください。

出典:https://www.city.toyama.lg.jp/health/shogaisha/1010519/1015189.html

効果を踏まえて対象業務を広げる

最初の一手で効果が確認できたら、次はどの業務へ広げるかを検討する段階です。

参考になるのが豊寿会の進め方です。同法人はまず会議をオンライン化し、所要時間を30分から10分へと短縮しました。この手ごたえを足がかりに、情報共有、さらにはシフト作成、勤怠管理へと、対象とする業務を少しずつ広げていったのです。会議から情報共有、そしてシフト・勤怠へ——という段階を踏んだ展開が、無理のない広げ方の見本と言えるでしょう。

ここで気をつけたいのは、一度にあれもこれもと広げすぎないことです。新しい仕組みには、職員が慣れるための時間も必要になります。豊寿会の現場からも、慣れるまではこまめに教えることが大切だという声が上がっています。焦らず、職員の習熟度も見ながら段階的に進めていく。この積み重ねが、デジタル化を現場にしっかり根づかせる運用体制につながります。

出典:https://www.ricoh.co.jp/magazines/smb/casestudy/000952/

DXの推進には補助金や助成金の活用が可能

デジタル化を進めたいと思っても、費用の負担が気になって一歩を踏み出せない方は多いはずです。そんなときに頼りになるのが、国や自治体が用意している補助金・助成金です。ここでは、障害福祉の事業所が使える代表的な制度を紹介します。

  • 国の制度を活用する
  • 都道府県・市区町村の制度もある

国の制度を活用する

国の制度としてまず知っておきたいのが「障害者就労施設における生産活動の効率化に資するICT機器等の導入事業」です。令和6年12月17日から適用が始まりました。

対象となるのは、就労継続支援A型・B型の事業所、生産活動をおこなう生活介護事業所や地域活動支援センター、そして共同受注窓口です。補助の対象となるのは、RPA(パソコン作業を自動でおこなう仕組み)やAIといったICT機器、工作に使う機械や治具(作業を補助する道具)などです。障害の特性に合わせて仕事の幅を広げたり、作業を効率化したり、工賃の向上につながったりするものが対象になります。

ここで見落としがちな注意点があります。単にパソコンやタブレットを購入するだけの費用は、この制度の対象にはなりません。あくまで「生産活動の効率化につながる機器」であることが条件です。この点は、後で紹介する自治体独自の制度との違いにもなるため、しっかり押さえておきましょう。

費用の負担割合は、国が2分の1、都道府県などが4分の1、事業者が4分の1です。1つの事業者あたりの上限額は200万円と定められています。

出典:https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/001524120.pdf

なお、補助金とは少し性質が異なりますが、令和6年度の報酬改定では、デジタル機器の導入が加算の要件緩和につながる仕組みも整えられました。具体的には、見守りを支える機器を入所者数の15%以上設置した障害者支援施設について、夜勤の職員配置に関する加算(夜勤職員配置体制加算)の要件が緩和されています。機器の導入が、費用の補助だけでなく報酬面でもプラスに働く一例と言えるでしょう。

出典:https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/001204018.pdf

都道府県・市区町村の制度もある

補助金は、国が用意しているものだけではありません。都道府県や市区町村が独自に設けている制度も数多くあります。

たとえば、この記事で紹介した事例も、いずれも自治体の制度を活用しています。大三島育徳会は、東京都の「介護保険施設等におけるICT活用促進事業」を使い、2019年10月に申請してシステムを導入しました。ALSIA富山と希望のきずなは、富山市の「障害福祉分野のICT導入モデル事業」や「就労系障害福祉サービスにおけるICT機器等導入支援事業」を活用しています。

こうした自治体独自の制度は、国の制度とは対象の範囲が異なることがあります。先ほど「国の制度ではパソコンやタブレットの購入は対象外」とお伝えしましたが、自治体の制度では、こうした基本的な機器の導入も対象になる場合があるのです。だからこそ、国の制度だけで判断せず、地元の制度もあわせて調べることが大切と言えます。

出典:https://www.otsuka-shokai.co.jp/products/multiple-locations/case/case03.html

ただし、これらの制度は自治体ごとに名称も対象も申請時期もばらばらです。「隣の市で使えた制度が、自分の地域にもあるとは限らない」という点には注意しましょう。まずは、自分の事業所がある都道府県や市区町村の障害福祉を担当する部署に問い合わせて、どんな制度が使えるかを確認するのが確実な進め方です。実際、行政に求める支援として「小規模な事業所向けの支援強化」を挙げる声も一定数あり、規模の小さい事業所ほど、こうした制度をうまく活用したいところです。

【注意点】DXだけでは解決できないこと

ここまでデジタル化のメリットを中心に紹介してきましたが、当然ながら万能ではありません。導入すればすべての悩みが消えるわけではなく、事前に知っておきたい限界もあります。ここでは、DXだけでは解決しにくい3つの注意点を整理します。

  • 職員のITスキル格差は簡単には埋まらない
  • 使いこなすまでに時間がかかる
  • 一度にすべてを変えるのは現実的ではない

職員のITスキル格差は簡単には埋まらない

まず向き合っておきたいのが、職員のあいだにあるパソコンやタブレットの得手不得手の差です。

杉並区の調査には、この点に関する現場の声が複数寄せられています。操作が複雑なシステムだと、使える一部の職員に業務が偏ってしまう。研修の時間を十分に取れず、なかなか現場に定着しない。そうした趣旨の悩みが、匿名の自由記述として見られました。

さらに深刻なのが、詳しい職員に頼りきりになってしまう状態です。その職員が異動したり退職したりすると、システムの管理が形だけのものになり、うまく回らなくなる。こうした不安も同じ調査で挙がっています。機器を入れれば自動的にスキルの差が埋まるわけではない、という点は最初に押さえておきたい課題です。

出典:https://www.city.suginami.tokyo.jp/documents/24162/ictsurveyreport.pdf

使いこなすまでに時間がかかる

新しい仕組みは、導入したその日からフル活用できるものではありません。慣れて使いこなせるようになるまでには、どうしても時間がかかります。

前に紹介した滝乃川学園の事例(厚生労働省の事例集)にも、その様子が正直に記されています。新しい記録ソフトは、それまでと入力のやり方が違うため、戸惑ってしまう職員もいたそうです。また、職員どうしで情報をやり取りするグループウェアについても、現状はスケジュール管理やメールくらいしか使えていない、という声が挙がっています。

つまり、多くの機能を備えたシステムを導入しても、はじめのうちは一部の機能しか活用できないことが少なくありません。「入れたのに使いこなせていない」のは決して珍しいことではなく、時間をかけて少しずつ習熟していくものだと理解しておくと、焦らずに進められます。

出典:https://www.mhlw.go.jp/shogaifukushi/case/05/

一度にすべてを変えるのは現実的ではない

「せっかくなら一気に全部デジタル化したい」と考えたくなりますが、これは現実的ではありません。

理由の1つが、費用の面です。紙による運用と違い、システムの利用にはソフトの利用料といった固定の費用が毎月かかり続けます。あれもこれもと同時に導入すれば、そのぶん負担も大きくなってしまうのです。杉並区の調査でも、効果の高い部分から順に少しずつ導入すべきだという趣旨の声が寄せられていました。だからこそ、記事の前半でお伝えしたように、課題を絞って段階的に進める進め方が理にかなっています。

もう1つ、忘れてはならない原則があります。見守りシステムや記録の効率化は、あくまで職員の負担を軽くするための手段にすぎません。利用者一人ひとりと向き合い、その人に合った支援を届ける——この最も大切な部分は、これからも変わらず人が担っていくものです。デジタル化はそのための時間を生み出す味方であり、支援そのものを置き換えるものではない。この視点を持っておくことが、ツールに振り回されないための土台になります。

出典:https://www.city.suginami.tokyo.jp/documents/24162/ictsurveyreport.pdf

判断に迷ったらプロへの相談を

ここまで、障害福祉のデジタル化について、業務ごとの事例から成功した施設に共通するポイント、進め方、使える補助金、そして注意点まで見てきました。多くの事例に触れる中で、「うちの事業所でも何かできそうだ」と感じていただけたのではないでしょうか。

その第一歩としておすすめなのが、市販の障害福祉ソフトや業務システムを実際に試してみることです。多くの製品には無料体験やお試し期間が用意されているため、まずは気になったものから触れてみましょう。カタログや宣伝文句だけではわからない使い勝手を、現場の職員が自分の手で確かめられます。

一方で、いくつかのシステムを試すうちに、「どれも自分たちのやり方にはしっくりこない」と感じる場面もあるかもしれません。記録の様式が独自すぎて標準の機能に載せきれない、複数の事業所をまたいだ情報共有ができないなど、既製品だけでは解決しきれない課題を抱えている事業所も少なくないためです。幅広い事業所に合うよう作られている市販ソフトは、その分だけ細かい部分で「かゆいところに手が届かない」もどかしさが残ることもあります。

そうした場合には、自分たちの業務の流れに合わせてシステムを作る、いわゆるDX(デジタル化による業務の見直し)という選択肢も検討する価値があります。既存のソフトを組み合わせるだけでは埋まらない部分を、事業所の実情に合わせて設計し直すことで、無理なく現場に馴染む仕組みを作れる可能性があるからです。

もっとも、システム開発と聞くと、費用や期間の面でハードルが高く感じられるかもしれません。まずは自分たちの施設で、記録や請求のどこにどれくらいの負担がかかっているのかを整理し、それが仕組み化やシステム化で解決できそうな課題なのかを見極めることから始めてみましょう。その判断材料を得るひとつの方法として、DX・受託開発を専門に手がける企業に相談してみるのもおすすめです。

EPICs株式会社(https://epic-s.co.jp/)では、ノーコードやAIを活用した開発により、現場の業務に合わせたシステムづくりを、費用を抑えながら支援しています。構想が固まっていない段階のご相談でも問題ありません。

障害福祉のデジタル化は、決して大がかりな決断から始める必要はありません。無料トライアルで使用感を確かめてみる、既製品で足りない部分だけを相談してみる——そうした小さな一歩の積み重ねが、やがて職員の負担軽減と、利用者一人ひとりへの支援の質の向上につながっていくはずです。

記事監修者

目次